サピエンス勝利の歴史と危機:科学革命
はしがき
科学革命による一大変化は、物資とエネルギー(material & energy)を自然から得るのではなく、科学と技術(science & technology)の力による創出であった。科学革命が人類史における最も重要な変化とされる理由は、人類だけでなく、地球上に住む全ての生物の運命を変える分岐点となったからである。
最も重要な変化は、前例のない急激な人口の増加である。科学革命が始まった頃(1500AD)の人口は、5億ほどだったが、500年後(2000AD)には60億に、現在は80億に達する。増加の速度は、科学・技術の進歩と共に加速している。20世紀100年間の増加は45億、農業革命後一万数千年における増加の9倍。20世紀に増加した45億の内、35億(78%)が後半の50年間における増加である。この期間における科学と技術の目覚ましい進歩が、人口増加に寄与していることがわかる。
科学革命では次々に新しい発見があり、あらゆる分野の知識が増えた。科学と技術の進歩は大量生産を可能にし、生活レベルの向上に貢献した。新しい教育によって、人々は宗教の教えを信じていた自分たちの無知に気づいた。人々は強力な一神教よりも、自然崇拝や人類愛などの新しい宗教を信じるようになった
アフリカやインドなど旧植民地では、医療活動や経済活動によって多くの幼い命が救われた。一般人はもちろん、高齢者や障碍者は福祉政策によって、生活レベルが向上し寿命が延びた。資本主義において、人口増加は経済成長への追い風になると考えられている。
科学革命の本質
科学革命(1500ADから)は、農業革命(12000BC)による変化を拡大しただけではない。自然を観察・探検・実証して、人類が自然を支配する能力を得たのだ。科学と技術の研究は巨額の資金を必要とする。科学革命を支えたのは、農業革命によって発達した帝国(empire)と、巨額の資金を調達できる資本主義(capitalism)であった。
農業社会で裕福な資本家は、銀行に資金を預け、宗教家や哲学者を援助した。一方、科学社会では、巨額の資金を必要とする冒険家や科学者を支援する。科学革命の先駆者となったコロンブスは、ヨーロッパの帝国から巨額の資金を得た最初の人であった。コロンブスが開いた大航海時代は、大帝国が競って植民地を拡大し、グローバル社会の発達に貢献した。
科学が必要とした巨額の資金は、国家による科学研究への投資となった。初期における投資の目的は、国家が戦争で勝利ための技術開発、すなわちロケットや戦車などの開発であった。一方、アメリカ政府は、物理学による核研究に巨額の研究資金を提供した。その成果は、1945年7月16日ニューメキシコ州(米国)における最初の核爆発である。これこそ、科学革命時代500年間に起こった唯一かつ決定的瞬間だった。その3週間後、広島に最初のウラン原発が投下された。やがて核の時代となり、人々は核の脅威の中で生きる時代となった。
Pax Atomica (核の脅威と平和)
太古の昔から人類の間で争いは絶えることがなかった。農業革命以降は、戦争によって相手の領土と資源を略奪し、自らの領土を拡大し豊かにした。第二次世界大戦における核爆弾の使用は、核戦争による人類の終わりを示唆した。その結果、国家の目的は戦争ではなく、平和による豊かな経済に変わった。
戦争から平和へ転換した四つの理由は、�\鐐茲僕廚垢詛�大な費用と損失、��国家の富は領土や自然資源に代わる知的財産が重要、�J刃造�可能にしたグローバルレベルの投資や貿易、�な刃造鯊困屮┘蝓璽函蔽亮運佑篝�治家など)の増加、である。戦争を避けて、豊かな生活のために、国際連合を初め様々な国際機関が設立された。
科学革命による変化
科学革命は、人々が如何に無知であったかを発見する過程だったと言う。宗教の世界観から事実を検証する科学への転換は、物理学だけでなく、生物学や有機化学の分野に拡大され、学問の融合も盛んとなった。科学研究は、心理学や社会学などの分野にまでひろがった。
生活レベルの向上と医学の進歩によって、出産や乳幼児の死亡が激減し、平均寿命は確実に伸びていった。工業革命に始まった大量生産は、地球レベルの貿易に拍車をかけた。20世紀の末(1995)に発見されたパソコンと、21世紀初期のスマホ発見(2012)は、世界規模の物流と知識や文化の共有に貢献している。
科学革命の現状と未来
すでに500年を過ぎた科学革命の歴史は、20世紀末のコンピュータと21世紀のスマホの発見によって新しい局面を迎えている。著者によると、自然の摂理による遺伝子の変異を、サピエンスがコンピュータによるデータの蓄積・分析によって可能である。こうしてサピエンスは、人類と地球上すべての生命を支配する神に等しい存在となった。
自然の摂理を人間が行うことをインテリジェンス・デザインと呼ぶ。その例として、農業では古代から家畜を交配して飼いならした。最新の進歩は、頭で考えて動かす人工の腕である。他にも、コンピュータ・ウイルスのように、生き物のように増殖し変異する無機物がある。「また人間脳プロジェクト(2003)」では、コンピュータ(無機物)の中に人間脳を作る研究をしている。研究費として10憶ユーロの予算がある。
科学革命の脅威:フランケンシュタインの出現
このフィクションでは、超人的才能の人間を創造しようとした科学者が、誤って悪魔のようなフランケンシュタインを創った。驚くべき事は、この物語が鉄道の発明以前(1818)に書かれたこと。そのためか、過去2百年近い間、生命の創造は神から罰せられる最悪の罪とされた。
今は、科学研究を罰する神はいない。科学と技術の急速な進歩によって、サピエンスは自滅するか、体も心も全く異なる生物に置き換えられる危機に直面しているという。バイオエンジニアリングの研究は、倫理規定に従う義務がある。一方、コンピュータと人間に関わる科学研究は、「病気の治療と命を救う目的」と言われると議論の余地がない。
我々は科学者が進む方角を阻止できない、しかし変更はできる。著者は、人類が問うべきことは「何を欲するのか(what do we want)」であり「何になりたいのか(what do we want to become)」ではないという。
平和国家・日本の未来
東洋の端という地理的な位置や、徳川幕府の鎖国政策によって、日本人は長い間、欧米で起こった科学革命を意識しなかった。確かに、蒙古の襲来、ペリー来航による開国、明治維新など政治的な変化はあった。それでも大多数の日本人は、第二次世界大戦が終わるまで、人力を主とする農業を営み、床屋・鍛冶屋・下駄屋から着物を売る店が並ぶ村社会で生活していた。争いは村の長老が仲立人となって解決し、結婚や葬儀は村人が協力して行った。
多くの日本人が科学革命の脅威を肌身で経験したのは、第二次世界大戦における空襲と原子爆弾の投下であった。進駐軍が見た終戦直後の日本は、ハニーバケツを運ぶ馬車と田植えをする農夫の田園風景であった。
平和国家として再出発した日本は、自動車産業や精密機器の製造により世界有数の経済国家に変わった。グローバル時代のリーダーとなった日本の自衛隊や、協力隊は世界平和の担い手として活躍している。若い世代は、スポーツや音楽、アニメで世界をリードしている。
日本人は、科学革命による最大の脅威と恩恵を受けた国民ではないだろうか。