日本人の英語講座:第4回 ベビーが英語を学ぶとき(その1)

日本人の英語講座:第4回 ベビーが英語を学ぶとき(その1)

音声言語を上達するヒントは、ベビーが母語を学ぶ姿にあります。言葉は生きるためのスキルであり、胎内から始まっているのです。一児の母として渡米し、大学で発達心理学を学ぶことになってから、私にとって子育ての毎日が感動と発見の日々に変わりました。特に私の興味を引いたのは乳幼児の言語発達です。

脳神経のイメージング研究成果

母語・外国語の違いを超えた音声言語を習得するメカニズムが次第に明らかになり、新しい言語学習理論と教育技術が開発されつつあります。

人間だけの特技である言葉の発達で注目すべきことは、言葉は意味を伝える(認知)面と、感情を伝える音声(tone)・顔や体の筋肉による表情・動作(body language)など総合作用なのです。脳レベルで言えば、認知は左脳皮質(cortex)の言語センターで、一方、音楽分野といわれる右脳がイントネーション・リズムなど音声面。言語発達の初期において、右脳が中心的な役割を担います。活字と違い音声言語は、喜怒哀楽などの感情や動作を伝える大脳皮質下(lymbic & basal ganglia)などの働きも重要です。

子どもが言葉を学ぶ三大条件は「シンプル」「人間のきずな」「喜び」であり、本人が「主役」です。本人のたゆまぬ努力とそれを支える条件が満たされて言語が習得されます。ちょうど、樫の木に成長する小さなどんぐりの内なる力と、それを支える環境(水・光・温度・養分など)と同じ。言語心理学では「学習者中心の教育(focus on the learner)」として半世紀以上も前から提唱されています。

母語を学ぶベビーと、他言語の学習方法は違います。その理由は母語以外の言語を学ぶ最大の障害は、学習者が母語の音声要素(リズムやイントネーション)を無意識に他言語へ移行するからです。塾で学ぶ子どもの英語スピーチが日本語に聞こえるのはそのためです。日本語を母語とする人は、日本語に特化した音楽的な学習法が必要です。移民大国アメリカでは、最近になって、移民による英語学習が脳科学・心理学の分野で研究され、新しい教育法が発達しています。しかし、現時点では異なる母語へ対応できません。脳卒中の患者も右脳を活性化するセラピーである程度は音声言語を話せるようになるスピーチセラピーが発達しています。

脳レベルの研究に基づく学習法へ導く出発点として、ベビーが母語を学ぶ方法について、日本の言語心理学研究から、重要な知見を述べて見ましょう。

「かたこと」は「眞のことば」

日本でも早くから乳幼児の言語習得過程が研究され、一九八〇年代にはすぐれた一般書が出版されています。著者によると、言葉は子どもの精神の発達を示すもので、脳の発達など生物学的な因子はもちろん重要です。それと同時に、子どもは歴史的文化的存在としての価値を求め、自己実現の道を歩む姿であり、子どもにとって、ことばの学習は楽しいと指摘しています。ことばの発達を支える環境があれば、木の実が成長するように自力でどんどん学んでいきます。

著者は一歩踏み込んで、子どものことばを見直そうと提案しています。子どものことばから学ぶべきことは、「不完全」とか「かたこと」として、大人が教え、強制すべき対象とすることは「大人による自己中心主義の亡霊であり子どもをしいたげている」。大人は、「真のことば」の研究を待たなければいけないと結んでいます。

ここで注目すべきことは、子どもが話す「かたこと」は、学生が単語帳で暗記する単語とは全く違うことです。子どもは意味を伝える短い文章(英語では3-6語で構成)を、音声として頭の中で記憶し(受信)、その中で最も重要な単語を話している(発信)のです。このことは、近年、急速に進んだ脳科学や心理学の研究が実証しています。すなわち、脳の記憶が未発達の子どものスピーチは、「かたこと」によって「真のことば」による意味を伝えているのです。

結語

「かたこと」は大人の言葉の断片ではないのです。このことは、母語、外国語の違いを超えて、学習の鍵は脳への長期記憶であり、長期記憶を伸ばしていく学習法の重要性を示唆しています。これまでの事例から見て、日本では少数の個人レベルで実践され、理論に基づく体系化されたカリキュラムは未だにないのが現状です。[KK.HISAMA:2016.6]

 

©2015 athena international research institute.