日本人の英語講座:第2回 サルは英語を学べるか(その2)

日本人の英語講座:第2回 サルは英語を学べるか(その2)

サルの英語研究:論争と結末

The Patterson Study, KOKO, 1972

 他のすべての研究と違う点は、KOKOがゴリラであること、手話と音声の両方を学習したことです。研究者はカリフォニア州の大学で心理学を専攻する女性と院生たち。キャンパスを自転車に乗って走るKOKOは、サンフランシスコ動物園で生れ、研究のために借りたゴリラでした。研究者の報告では、「音声では二千語がわかる」「独自の手話で千語以上の単語を使う」「複雑なサインができる」「時空を越えた内容として、過去の出来事を話し自分に有利なうそをつく」等など。見え透いたうそはユーモアたっぷり。

映像による報告が多く、科学的データがほとんどないため、他の研究者からの批判が絶えません。「あばたもえくぼ」と同様で、研究者の自由裁量に過ぎないと思われる報告が多いのです。一方、人気者のKOKOについて話題が一杯。約束の年月が過ぎて返還の日が来たとき、研究者は、「人間のようになったので動物園のゴリラではない」と返還しません。サポーターによって動物園から買い取る費用はもちろん、広大な屋敷も寄付されました。メートとの出会い、出産、ハワイへの移住など。KOKOの猫好きも有名で、その愛らしい姿が人気をあつめています。

Terrace Study, NIM Chompsky 1973 

研究の目的は、WASHOEの研究を再現し綿密な科学的なデータを得ることで、サルの言語獲得の確証を得ようとするものでした。学習レベルも単語ではなく、いくつかの単語による語順や意味の習得。すなわち、単純なフレーズを理解して、フレーズで応答できるレベルのコミュニケーションを目指したのです。

 KOKOとほぼ同時進行で、研究者は言語学や心理学の専門家チームによる研究。KOKOがアメリカ大陸の西海岸ならNIMは反対の東海岸。場所はこれまでのように田舎か田舎に近い州立大学ではなく、ニューヨーク市・マンハッタンにあるコロンビア大学。サル名の由来は、「行動心理学」全盛の時代に、対抗する言語学の権威、Norm Chomskyの実名をもじっています。

残念ながら、結果は彼らが期待した人間レベルのコミュニケーションとは程遠いものでした。サルは単語を学んでも正確な語順によって意味を正確に伝えることができません。 例えば、三つの単語を単純に並べると、”man bites dog” “dog bites man” の二つは意味が全く違います。 数年後、研究結果は科学論文として発表され、「サルは人間のことばを学習できない」と結論、自分たちの研究だけでなく、すべてのサルの言語研究を分析し厳しく評価するものでした。

論文では、ほとんどの研究は科学的データが不充分なこと、映像やエピソードに基づいた研究者のバイヤスも指摘されました。この研究でも習得した単語数は一二五とされていますが、第三者による評価では五分の一の二五程度です。サルは人間のことばを学ぶことはできないという結論は、一般的に受入れられたようです。

この論文の発表を契機にして、心理学の中心は動物の学習に適する行動心理学から、人間レベルの知覚心理学へと大きく転回していきました。

 

サルに言葉を教える研究からの示唆

 サルが人間の言葉を学ぶことは大変な努力が必要です。示唆された内容は、大きくサルの知的な面と感情的な面に分類されます。

知的な面:言語は非常に複雑であり、高度な脳機能をもたないサルは言語の三原則をクリアできない。この三原則は人間だけがマスターできることばの本質です。

1)単純なフレーズから複雑な文章まで、正しい語順によって構成されていること

2)言葉の数が増加するにつれて、意味が拡大していくこと

3)自主的・創造的であり、単に質問に答えるだけでないこと

感情的な面:サルの学習における共通点は心の絆を求めることでした。最後までKOKOの能力を信じるパターソンと、NIMを科学的な実験研究の対象とした言語学者テラスは対称的で、サルの精神衛生に深い影響を残しています。実験が終わってから、NIMは薬物実験や動物愛護の対象となるなど、何回かスポンサーを代えて二六歳で死亡。一方、KOKOは親代わりのパターソンと一緒、ハワイで広大な屋敷に住んでいる四四歳の老年。三代目の猫を可愛がっているとか。[KK.HISAMA 2016.2]

 

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