日本人の英語講座:第1回 サルは英語を学べるか(その1)

日本人の英語講座:第1回 サルは英語を学べるか(その1)

サルに英語に教える研究はアメリカで半世紀以上も続き、厳密な検証によってサルは英語をマスターできないことがわかりました。一方、人間が母語を学ぶ過程は、近年のイメージングなどによる脳科学の研究から次第に明らかにされています。今回から始まる英語講座では、サルと人間が言語を学ぶ過程を比較することで、(1)日本人の英語学習における根本的な問題点を明らかにし、(2)これらの研究成果を踏まえた最新の英語学習法を紹介します。

はじめに

一連のサルの研究を導いた心理学の理論は、鳥や動物の学習で注目された行動心理学、今でも買い物のポイントなど、広く適用されています。私がサルの言語研究に注目する最大の理由は、単語や単音の学習にこだわる外国語教育と類似する点です。サルの英語学習はミクロ(単音・単語中心)の方法であり、人間が母語を獲得する過程とは本質的に違うからです。乳幼児はマクロからミクロへという過程で母語を獲得していきます。これは人間の言語だけでなく、自然界で生物がサバイバルするための行動における普遍的な現象なのです。トンボの視覚がマクロで機能することが実証され、アメリカの科学雑誌に報告されたのは1970年代のことでした。以下、サルに英語を教えた研究を選択し、研究名、サルの名前、開始年度の順で要約しました。「サル」は「ヒト」以外の霊長類とします。

初期の研究

Kellog Study: GUA, 1931

  心理学者による研究で、目的は人間によって育てられた動物が人間のようになるのか。GUAは七ヵ月のチンパンジー、研究者夫妻が育て親となり、十ヵ月の息子と三人一匹の家族として生活しました。普通の家族と違う点は、息子とサルはいろいろな課題が与えられて、その様子が観察され記録されたことです。二歳までの研究結果では、すべての発達においてGUAが上位、しかしGUAは人間の言葉をほとんど話すことができませんでした。それどころか、ある日、息子は食べ物が欲しがってサルの鳴き声を真似るエピソードがあり、ここで実験は中止。言語を話すのは人間だけという前例が示されたのです。

The Hayes’ Study, VICKI, 1951

 この研究も自宅で研究者夫妻によるもの。研究目的は「氏か育ちか」、当時は心理学の分野で注目された話題でした。書籍はもちろん、この研究にヒントを得たハリウッド映画が製作されたほどです。VICKIに言語を教える方法は、母音や子音から始まるスピーチセラピーで、発音を助けるためにあごを下げるなどの操作を試みました。まるで人間の子どものように育ったのは一八ヶ月頃まで、以後は言葉が話せないのです。二つか三つの単語の発音さえ大変苦労しました。VICKIが話したことばは、”mama” “papa” “up” “cup”の四つでした。 この研究の意義は、サルは人間のような身体の発音器官がないこと。その後の研究では、サルは手が器用なことに注目し、ASL(アメリカのサインランゲージ)による手話を教えています。

音声から手話へ転換した研究

The Gardners’ Study, WASHOE, 1967

 やはり夫妻による研究でしたが、公立大学の研究として言語学習が中心でした。それまでの研究の知見から、サルが話せないのは発声器官がないからで、手話でことばを教えました。移動式の住居は居間と台所つき、サルは女の子のドレスを着て、夫妻と一緒に食事など生活を共にしました。五年後に夫妻と別れましたが、別の大学で研究が続けられました。

 この研究では詳細な教育プラン、すなわち手話を学ぶ環境、仲間意識、教育方法など、最新の教育原理を応用しました。例えば、まわりの人は手話だけで話すこと、孤独にならないように誰かが側にいること。他に重要なことは動機づけです。言葉を学ぶ喜びは上達に伴う達成感であり、食べ物とか、サルが本能的に喜ぶ「くすぐる」などは、二次的なものであり、言語の更なる発達には役立たないと考えました。

 結果的にサルは三五〇の単語を覚え、客観的なテストによって実証された発見は三項目あります。仝生谿奮阿亮┷兇なくても言語コミュニケーションができる、独立した研究でも結果の相違がない、手話ではない自然な言語と同じように、言葉が意味するカテゴリーがわかっている、例:犬は形が違っても犬。この研究は成功と見なされ、再現する研究が、別のサルによってニューヨークのマンハッタンにあるコロンビア大学で行われました。[2016.1 KK.HISAMA]

(以下は次回へ続く)

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