特集アセナ学術セミナー:TPPと医療の社会保障・オバマケアの現場から(その3)

特集アセナ学術セミナー:TPPと医療の社会保障・オバマケアの現場から(その3)

はしがき

高齢化と高度医療が急速に進んでいる現在、先進国におけるユニバーサルケアは次第に困難となっている。半世紀以上も高度医療を先導しながらIT時代の今、ようやく始まった米国におけるユニバーサルケア。今回は2つ目のキーワード「創意工夫」について述べる。
 

オバマケアの実践における「創意工夫」

  発展途上国の人々は高度医療より民族医療を選択する。彼らの医療は長い経験に基づく「創意工夫」であり、民族の歴史や文化にふさわしい医療の実践である。高度医療の費用が高騰の一途をたどっているアメリカでも民間療法は各地で実践されてきた。なぜなら、大多数の国民が必要とするのは日常の単純な医療であり、多くは予防や早期治療によって解決できるからだ。それは、広大な大陸という地勢と、「血縁より地縁」に頼る移民の歴史に深く影響されている。以下、オバマケア実践における最新情報である。

 (1)一つは訪問看護、その歴史については前回のオバマケアにおいて既に述べた。高齢化が進行している現在、看護協会主導のサービスとしての訪問看護は、ゆるぎない地位を確立している。日本の医療事情と大きく異なる点であろう。アメリカのナースの医療技術は高度であり、彼らのプロとしての自覚と責任は見上げるものがある。実は私も権限を与えられるとこれほど変化するのかを発見して驚いた経験がある。それはイリノイ州の保健センターでの出来事。それまで役人がトップに立っていたが、法律の改正によって実働部隊である保健婦(パブリックナース)が所長になった。その日、保健婦たちが示した明るい表情と「やる気」は私に深い印象を与えた。
 (2)二つはオバマケアが実践されてから町のあちこちで新設されているウォークイン・クリニックである。「アージェントケア・クリニック」と呼ばれる新しい発想である。以前は、診療は医者のグループが働くクリニックや病院でアポが必要だった。ここではアポなしで簡単に診療・処方してもらえる。日本の開業医のオフイスと似ているが、違いは診療や処方ができるナース・プラクティショナーが多いこと。高度の診療は医者であるが、チーム医療のため、栄養士、理学療法士などもチームで働き、彼らの士気は高い。
 (3)もう一つ新しい発想は、情報時代の機器を媒体とする診療である。電話による医療アドバイスは1970年代から始まっていたが、現在行われているコンピュータを駆使する診療は次元が異なる。ここでは患者がマスターで医者やナースとの良いコミュニケーションが重要である。すなわち、患者は自分の病気について、また医療費についてネットから詳細な情報が得られるので、わからない点は医療者と対等な立場で突っ込んだコミュニケーションをする。検査や治療の決定権は患者側にある。これはネットでもできるので、その場合の診療所はネット上、検査結果や医療の個人情報が書かれているカルテもネットで取得。
 (4)患者のための質の高い医療も新しい形で始まっている。一例を挙げると、医者は能力と結果によって報酬が得られる取組みである。医者の間で決定される「ベストドクター」の選出も毎年発表され彼らにやる気を与える。日本のような健康保険が自動的に支払う「もうかる医療」は時代遅れの感がある。また、死を恐れる高齢者の延命医療は、ナースが深く関わる「平和な死」の実践に変わりつつある。患者が苦しむ医療は幕を閉じ、最期の希望と平和の光が期待される。
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 以上、2年前に始まったアメリカのユニバーサルケア(オバマケア)について、前回の「市場原理」に続き「創意工夫」について述べた。高度医療の行末を示唆するアメリカの医療は、ヨーロッパでも次第に広がっている。今なお、病院の延命医療の悲しさに耐える高齢者が如何に多いことか。オバマケアはTPPの施行を超え、今後の日本の医療に新たな方向性を示すものと思う。[KK.HISAMA 2014.12]

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