学術セミナー・シリーズVI

学術セミナー・シリーズVI

アセナ学術セミナー・シリーズVI:英語教育70年の功罪と英語教育方法論

はしがき

日本の英語教育は、第2次世界大戦後、占領政策を実施した連合国軍の組織(GHQ)の指導よる新しい学制(6・3・3・4)の下で、各人が10年間の授業を受けることになった。これは、明治政府の下、明治5年に世界で初めて児童の義務教育を開始し、その中で西洋的な唱歌が授業に取り入れられた歴史を思わせる。初めは教える先生も唱歌もなかったので、文部省の指導により、日本人が西洋のメロディを学び、作詞・作曲した。

小学1年生から教えられてきた唱歌は、「おんがく」と呼ばれるようになったが、その後も発展を続け、苦楽を共にする心の泉として国民が共有する精神的財産となっている。近年、録音機器が発達するとカラオケの歌として海外でも意外な効果を生んでいる。例えば、フィリピンで長期滞在した精神科医の話では、在留日本人の間に蔓延していた精神的な問題が、カラオケとラーメンによって著しく改善されたとか。

明治の初期に、政府はおかかえ外国人を招聘して言語や学問や実務を学んだが、それは指導者を育てるための暫定的な措置であった。唱歌の発展は、学校教育に日本の未来をかけた教員の覇気と情熱に支えられた。では、戦後始まった児童の英語はどうか。占領政策の柱である教育改革の中で、英語教育の重要性が強調された。初期には、日本語をすべてローマ字表記にする試みさえあったと言う。しかし、日本人の識字率が100%に近かったので、その案は没にされた経緯がある。

爾来70年ほど、義務教育の中に英語の履修を取り入れているが、英語を話せる教員はいまだに稀である。英語教育の主流は受験英語、やがて経済成長が実現され、先進国としての国際社会での存在が目立つようになっても一向に改善しない。政府はこうした英語教育の対策として、日本のすみずみまで英語圏からALT(英語教育助手)を受け入れることになった。すでに30年近い年月が経つが、この制度は今も続き招聘されたALTは膨大な数に上るであろう。

しかし、全体としてみると、日本人の英語能力はあまり向上していない。テレビからコンピュータ、パソコンまで視聴覚機器があふれる今、日本人教師はなぜ英語修得の基礎となる英会話を自分たちで教えられないのだろうか。ALTの存在は、英語教育の根本的な問題を露呈するかに見える。英語教育の効果は、国民の間に感性を養ってきた明治時代の唱歌の教育効果とあまりに違うからである。これでは、人間形成期(formative years)という重要な期間、英語取得のために全国民が費やした10年は「失われた時間」ではないか。

本シリーズでは、英語教育の根幹を考えずに対処してきた問題点を明らかにし、その解決策を社会・心理的に掘り下げて考察したい。また、IT時代における英語教育は人間形成の一端であるべきという視点から、日本語を母国語とする人のための「新しい英語教育方法論」の方向性を述べる。[KK.HISAMA 2014.7.15]

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