第4回 医療費半分・健康倍増の方法 後編

第4回 医療費半分・健康倍増の方法 後編

 ケンちゃん一家の健康法

はしがき

 前回は心の病について考え、無駄な診療費防止の第一歩として、本物の専門家の育成と彼等が働く環境作り、実践の方法を提案した。ヒポクラテス以降の医療は、医学を科学とする風潮によって、病気の原因を明らかにしてから治療することが求められるようになった。しかしながら長い間治療法が極度に限定されていた。近代科学が発達した一九世紀になると、医者は実験室の研究者を真似てホワイトコートを着て、診断の一助である聴診器を首につけるようになった。それでも診断は困難であり、ときには数ヶ月もかけても診断できない場合もある。診断名なしでは患者が満足しないので「ごみ箱診断」が多い。英・米・独・仏の四カ国を比較した著書では、ごみ箱診断はその国の文化を反映している。美食を楽しむフランスでは、肝臓病らしいとする「肝不全」、ハートに象徴されるロマン主義のドイツでは「心不全」となる。精神主義の日本では「心の病」というところであろうか。

「心の病」については前回述べたので、今回は「体の病気」について述べよう。多くの病気は自然に身を守るシステムである免疫力が低下すると起こる。そのため、ウイルスや細菌に侵されても、病気になる人、ならない人がいるし、症状も日常生活の支障がない軽いものから死まである。アトピーなど過剰な免疫反応による病気や死もある。免疫力は栄養や体温の影響を受けるが、最大の原因は心のストレスである。風邪はもちろん、がん細胞もストレスによって増大する。細菌の場合と同じように、がん細胞の数が少ないうちは病気にならない。「体の病」においても、風邪から癌まで体の病気も本当は心に関連していることを念頭に入れてほしい。

生活者の視点から考える体の病

 本セミナーの目的にそって生活者の立場から考えるとわかりやすい。今回の医療法改正で、国民中心の医療が強く打ち出された。これまでの予防検診においても、保健指導とドッキングして、早期にメタボなど生活習慣病のきざしをみつけ予防する方向だ。一般の予防検診は、自己管理ができる人は必ずしも必要ではないどんなに健康でもどんなに忙しくても、虫歯の予防と治療は必要であるが、歯科検診はあまり重視されていないことに注意しよう。

日本の典型的な家族として漫画「コボちゃん」こと「ケンちゃん」一家を例に、30代の両親、60代の祖父母、小学一年生のケンちゃんとしよう。お父さんは会社員で毎日出かけるので病気をするひまがない。お母さんは銀行のお客さま担当で10年のベテラン。家族思いで一家の健康指南役、雑誌や新聞、テレビから毎日のように健康情報を得ている。祖母はパートの仕事をもち、ケンちゃんが帰る前にはたいてい帰宅している。祖父は退職して市民団体でボランティアをしている。
そこでお母さんは一家の健康を積極的に進めていくモットーとして「医療費半分・健康倍増」を提案した。会計課長をしているお父さんは「いいアイデアだ、協力するよ。これで国家の医療費が半分になればいいんだがなあ」とため息をついた。祖父は「生活習慣病を予防するおいしい食事を作ってくれよ」と祖母に言った。祖母は「おいしくて健康によいなんてむずかしい注文ね」と言ってお母さんと顔を見合わせた。ケンちゃんは「病院に行かなくていいね。僕、病院がこわーい!」と叫んだ。ここで家族の様々な思いを整理してみよう。

 

ケンちゃん家の健康事情

 ケンちゃんの病院嫌い 

 乳幼児期を過ぎて小学校へ入るころからは身体は安定した健康な時期になる。この時期の主な健康問題は、遊びや移動時の負傷や交通事故である。子どもたちは予防注射の痛みやアルコールの異様な臭いから、医者や病院をおそれる。大人だって病院嫌いの人が多いが、病気には勝てないと思ってがまんしているだけかもしれない。人々が医療を本能的に避けたい気持ちは過去の様々な悪い経験によって増長される。病院に群がる人々は、病人から利益を得る医療システムに縛られるあわれな中高年者が多い。待ち時間が長いので、待合室は社交の場になっている。重病や救急時以外の病院嫌いは、人間本来の姿であり医療費半額・健康増進に生かしたいものだ。

 祖父の生活習慣病を予防する食事

 自然界で食と水を得ることは動物の死活問題である。人間も、一日の大部分を必要な栄養を得るために費やしている。一家の食生活を考えるとわかるように、食事は食べるだけではない。食材を買い料理する、食膳に並べる、食べる、食器を下げて洗い乾燥・整理する、調理のくずや残飯を廃棄するまであり、これらすべてにかかる時間は膨大である。食材を買う費用は仕事から得るが、収入の少ない人ほど食費は家計簿に重くのしかかる。三食外食するなら相当な費用が必要である。人生の3分の1が睡眠に必要なら、同じくらいの時間を食と清潔に費やしている。寿命の長い先進国の健康は、医療よりも食生活や清潔な環境が大きな役割を果たしてきたことを忘れてはいけない。アメリカの医者たちは、半世紀前から、長寿や乳幼児死亡率の減少の要因は生活レベルの向上であると指摘している。なるほど、人体のあらゆる活動の源泉であるアミノ酸(たんぱく質の成分)によって、病気は劇的に減少することが科学的に証明されている。 

お父さんが心配する医療費

国民が支払う医療費の負担は重い。アメリカの医療保険が批判されるが、その原因について深く分析された報告はない。まず、高度の専門医療をサポートする医学教育や臨床医のレベルの高さがある。一介の開業医が医学を設置できるような日本の教育とは格段の違いがある。医学教育は社会に貢献すべく公的な事業であり、それを支えきれない州がいくつかあるほどだ。次に、年間数百万人に上る違法移民の医療は、彼等が受ける公的な教育費より遥かに重い負担となる。確かに、アメリカの医療は救急医療や急性期の病気にすばらしいが、慢性病の治療には多くの問題がある。最近は特定の組織やコミュニティー単位で工夫して、必要な医療はすべて無料で提供されている。年金受給者の最低線の医療は保険料を払わなくてよい。年収の少ない人も、公的保険によって無料で医療が受けられる。

イギリスでも医療保険がまかなうレベルの医療費は無料である。ただ希望者が多い高度医療は待機期間が長くなるので、待ちたくない人は私費で受けられる。一方、日本では、退職後も数十万円の保険料を徴収し、介護保険料が別途にあるので二重の負担である。介護保険料に苦しむ年金受給者の声は切実である。国際競争を余儀なくされる企業経営者にとっても、百歳時代の医療保険を支えることは不可能になるだろう。保険料を徴収した上に、あらゆる医療費の三割の負担を求めるのは、世界の常識をはずれた医療政策である。

 

医療費半分・健康倍増と家族の力

  先進国においては医療費が増加する最大の原因(原因A)は、寿命の延長による老年者数の増加と高度な医療技術の進歩による。他の重要な原因(原因B)は、何を持って病気とするか、何処で誰が治療するか、治療費は実際誰が支払うかという医療政策である。病気の本当の原因(原因C)も重要である。病気の原因はそれぞれの時代や生活の場によって異なり、他の原因と密接に関連している。最大の恐怖となっている癌は、人体の最小単位である細胞の中の遺伝子が傷ついて起こる。がん細胞は誰の体にもあり、病気になる人は生まれつき遺伝子が傷つきやすい人、がん細胞を減少させる体の力が十分でない人は、癌細胞がどんどん成長し健康に害を与えるのである。がん細胞の発生と増加は、毎日の生活に密接に関連している。治療だけではなく、予防に大切な栄養や食の安全を守る自然環境にも目を向けるべきである。これらすべての原因に対応するためには家族の力に限界がある。しかし、家族の意欲や協力がなければ不可能である。家族の力で出来ることは何か、ケンちゃん一家を拡大して考えてみよう。 

病院嫌いの小学生

 病院嫌い・医者嫌いは健康な子どもの自然な姿である。より多くの人が病院嫌いの子ども心を生涯もちつづけ、健康増進を図るようになれば医療費半減は夢ではない。小学生のためのルールをいくつか整理してみた。

○ 病気にならないための生活習慣をつける。例:早ね早おきあさごはん
○ 自分や友達がすり傷や風邪などの日常病を経験したとき、病気のメカニズムを教え自分でできることを教える。例:出血、咳、涙などは体の自浄作用
○ 心の病気になった動物の話を例にして、心の病気と生活による予防法を具体的に教える。例:よく遊びよく学ぶ
○ 友達や家族が病気になったとき、病気を理解する機会を与え病人を思いやる。例:お見舞い、絵手紙
○ 環境と病気の関係を教えて出来ることに協力してもらう。例:飲み物は魔法びんから
 

祖父の健康食

 医食同源という言葉があるように、心臓発作や糖尿病の治療は食事がポイント。しかしながら、発生してから急に食生活を変えることは大きなストレスとなる。健康食が子どものときからの習慣であるなら無用なストレスである。生命を維持する栄養を補給する食事は、費用にしても、準備にしても生活の最も多くの費用と時間を要する。飽食になれた中高年の最後の砦は食習慣を変えることである。祖父の健康を約束する食事と生活のルールとして故事ことわざ事典の例を挙げる。

【食事量】腹八分目に医者いらず:これは昔の話、今の飽食は半分まで減らす
【栄養食】味噌豆は七里帰っても食え:大豆は栄養価が高い。アミノ酸で病気を予防
【塩 分】馬鹿の三杯汁:塩分が多い汁ものは少なく。お茶は三杯以上飲む
【消 化】餅腹三日:腹にもたれる、のどにつかえると窒息するので注意
【喪 失】落花枝に還らず:亡くしたら二度と戻らないかけがいのないもの。例:歯
【視 力】青葉は目の薬:頻繁に遠くの景色をみて目を休ませる
【気 持】病は気から:嫌なこと、細かなことを気にしない
【死生観】死生命あり:寿命は神の手にあり。死生観をもつ
【医 療】人の命は医者の手習い:命をおとす医療過誤が起こる。
【医 者】橙が赤くなれば医者の顔が青くなる:病人が多いほど収入の増える場所へは近寄らない
 

お母さんは健康指南役

 家族思いでみんなが病気にならないように配慮し、普通の病気なら症状を緩和してくれるお母さんこそ本当の家庭医である。アメリカにいた頃、ケンちゃんのような男の子を二人もって、リハビリの助手だった母親がいた。彼女の家の居間に「妻を大事する父の愛は、母親を通して子どもたちへ与えられる」が書かれた壁掛けが飾られていた。お父さんは子どもたちの健康と幸せのために、母親を大事にしなさいということだ。日本では嫁という表現で女性の人格を否定することわざが多い。子ども達にとって母は生涯、慈愛に満ちた女神のような存在である。年老いた両親にとって娘達は慈愛の女神となる。健康倍増の夢は、毎日の生活の中で、健康の女神である女性たちの知恵と愛によって実現されると言っても過言ではない。もちろん、母親に代わって父親が健康の指南役になれる。

 
文 献
久間圭子:医療の比較文化論:その原理と倫理を求めて、世界思想社、2003 
三條健昌:アミノ酸で免疫力が高まる、青春出版社、2004 

 

 

©2015 athena international research institute.