第1回:医療の社会保障と経済危機:アメリカの事情(1)

第1回:医療の社会保障と経済危機:アメリカの事情(1)

 高度医療が発達した先進国で、今から50-60年前に始まった医療の社会保障は、「ヘルス・インシュランス」、日本では「健康保険」または、「医療保険」として知られている。高度医療は国民の健康と長寿へ大きく貢献してきたが、高齢者の増加と高度医療の更なる進歩は、歯止めのかからない医療費の増加につながっている。高額医療費は年金問題と相まって、今、ヨーロッパで広がっている財政危機の一端を担っていることは明らかである。高度医療を支える高額な医療費は、全ての先進国における最大の政治問題であり、わが国においても対岸の火事ではない。
  では、高度医療の発達において世界をリードしてきたアメリカで、今、何が起っているのか。去る3月中旬に渡米した私が発見したのは、医療費をコントロールするための法案(俗にオバマケアと呼ばれている)を巡って、国民の意見が真二つに分かれ、最高裁判所が3日間という長時間にわたって事情聴取したことである。審議の結果は7月4日の独立記念日以前、6月中に発表される予定である。当初、法律の専門家たちの意見は、最高裁判所が法律を支持するであろうとしていた。しかし、9人の判事による質問やコメントの結果、法律の1部削除か全部がボツになるかもしれないと予測されているのだ。
 一般に、アメリカでは日本のような健康保険はないと考えられている。確かに全国民が政府によって均等にカバーされる健康保険はない。しかし、65歳以上の高齢者は一律にメディケアという政府による皆保険があるし、低所得者はメディケイドという保険でカバーされる。その他の年齢層においても、職員と家族の健康を守るため職場が手厚い健康保険を提供している。この場合は医療費が無料の場合が多い。政府の皆保険(メディケアとメディケイド)では、基本的に保険料を支払うことはないし、職場の健康保険の負担も日本の健康保険のように多額ではない。問題となるのは、中小企業など小さな職場や学生、外国人などである。彼らの多くは、車両保険のように、健康保険を事業とする保険会社と契約しないといけない。健康保険は州政府による予算や規制によって運営されるので、各州によってサービス内容が異なる。
 こうした保険制度の最大の問題は、自主的に保険契約を要請されている国民層(約50万人)である。彼らが持つ二大問題は、(1)保険金が高いので契約しない人が多く、その数50万人とも言われる、(2)保険を持たない人が病気になると費用が保険をもっている人たちに回され、保険料が更に高額になっていく。自分の保険料(数千ドル)に無保険の人の費用(1000ドルほど)が加算されるので、大きな負担になる。オバマケアは全国民が健康保険を持つための法案で、保険を持たない人は脱税者のように罰則を課す。保険の強制と罰則が最大の争点になっているが、この部分を削除するとこの保険制度が機能できないという。

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