第1回 日本の神々:後編

第1回 日本の神々:後編

 第1回 日本の神々:後 編

  現代の神道は、1.皇室神道、2.神社神道、3.教派(十三派)神道、4.民間神道に分類される。神道の由来を述べる古事記(712年)は、日本最古の神話であり、古代の律令国家による統一を正当化する歴史書であり、そこに書かれた神話・伝説・歌謡から洗練された神道をうかがうことができる。一方、素朴な民間神道の本質は、各地に伝えられる「日本の民話」や、民俗学の研究者の記録から知ることができる。北海道から沖縄まで、民話の神々は庶民に近い存在であり、飢饉や病苦があると常に人々を助けてくれた。神の恩恵に対して人々は祭祀を行い神に感謝したのである。

  こうした分類を超えて共通する概念としての神道は、悠久な自然と人間が一体となる世界がある。
 

生と死を抱擁する生命の根源

  心理学分野において人間は、知と情という両面のバランスによって生きる。知は理性や技術の領域であり、情は感情・感性である。どちらも人間が生長する過程において、家族や社会の中で学習され会得されていく。両者は独立して機能するのではなく相互に影響するので、情は生きる動機となり、人間関係において特に重要である。宗教の考え方は、心理学よりもっと深く、根源的な感性と感性に支えられた理性の両面がある。日本人の生命の根源は、自然であり死は自然に帰ることである。
  日本人の宗教を深く研究した故・磯部忠正が提唱する考え方は、俗と聖、ケとハレなど理性によって見える現象と見えない現象を対比した幽と顕の世界がある。人間はこれら両面の相互作用によって生き、生の最後にある個人の死は幽の世界である。生命の根源は自然の中にあり、原動力となる幽のはたらきによって支えられる。顕の世界は欧米の宗教概念を支配し、幽の世界は他の宗教、特にインドを中心とする東洋の宗教おいて際立つ。その中で、ユングに代表される深層心理学では、幽の世界を追求する。ユングが大切にする神話は幽の世界を知る上に重要である。 

日本人の母性信仰

  母系型宗教の要素は世界のどの宗教にもあり、自然から生れ自然に還るという普遍的な世界観につながる。日本人にとって、生れることは母からであり、死ぬことは亡き母のもとに、そして祖(おや)たちのもとに帰ることである。日本人の祖先回帰の本能や生命の根源が母性である考え方は、民間信仰において深い意味をもち、女性は中心的な存在である。このことは、近年、民俗学者の研究によって明らかにされている。
  アマテラスを神とする皇室神道に象徴される組織神道においても女神信仰が中心となる。例えば、大嘗祭(だいじょうさい)「陰陽五行からみた日本の祭り」弘文堂、『日本古代呪術』大和書房 は日本国の司祭者(神官としての天皇)の即位式がある。大嘗祭における性の研究で知られる吉野祐子は、それが行われる東と西の両殿のおける天皇の儀式と、一ヶ月前に天皇(みずか)ら河原に幸して行う(みそぎ)(はらい)を分析した。先行する御禊と大嘗祭において、天皇は巫女の資格で東の神界から渡来する神と交歓し、自ら新しい生命に生まれ変わるというものである。このことはアマテラスの誕生前に父、イサナギが河原で禊を行ったことを思わせる。吉野氏はアマテラスの子孫である天皇の本質は、巫女であり女性であると論説している。日本人の母性信仰を、最高神官の即位式である大嘗祭の原理に発見した吉野氏の努力と勇気は高く評価されている。(

祭祀による自然と人間のつながり

  人と自然と共同体を結ぶ祭祀、それによる人々の精神的なつながりは神道の重要な役割である。古代には山と里の境に人々が集まり、神聖な場所に石・柱・神籠(ひもろぎ)あれば、そこが祭り(神事)の場となった。祭りによって古代人は神を協同で再確認したと思われる。規模も大きく重要なのは奈良時代からの大禊があり、毎年六月と十ニ月の晦日に行われる。他にも大嘗祭(だいじょうさい)や伊勢神宮への奉幣(ほうべい)など国家的な儀礼がある。
芸能は祭りに欠かせない要素で、日本芸能の母胎となる。祭りは日常の規範から抜ける世界、神と人との一体感を生み出す。平安時代に始まった賀茂や祇園の祭りには、神事と歌舞芸能のダイナミックな関係が見られる。このように元来、祭りは神社の神事であったが、京都の祇園祭に見られるように、大衆のエネルギーによって遊びの部分が強化されるようになった。一方、平安時代の九世紀には祇園御霊会といって、当時流行した疫病などによって怨みを残して死んだ個人の霊を慰撫する祭りがあった。
  地方の祭りは稲作と密接に関連し、よその村や町に住む親戚や地域の人々が交流する機会であった。どの家でも日頃の粗食からは想像できない豪華なお膳を用意して、お神酒と共に客にふるまった。私は子どもの頃、祭りを祝う父や母の生れた町を訪れて、大人と同様にもてなされた楽しい思い出が忘れられない。

©2015 athena international research institute.