第4回 宗教と女性の身体性: 前編

第4回 宗教と女性の身体性: 前編

 

まえがき
  自由の女神はアメリカ合衆国の自由と民主主義の象徴として世界各地からの移民を温かく迎えてきた。女神信仰は世界の民族宗教に見られるが、世界的宗教においてもインド最大のヒンズー教では多数の女神を信じる。日本の天照大神は女性であり、隠れキリシタンはマリア観音を信仰した。女性こそ人類繁栄の(いしずえ)であり神に近い存在として受容されているように思われる。出産・育児など人類の存続にかかわる営みの中で、女性は折々神聖な瞬間を経験する。宗教と女性の身体性には深いかかわりがある。
 

女性の身体性の回復

 
 フェミニズムへの反動として、月経や出産に向き合う女性の身体性を研究する著書が出現した。三砂ちづるは女性の本能である母性や自然の法則に従う結婚・出産と生殖年齢の重要性を主張している。1958年生まれ、海外留学や国際的研究活動を経て大学教授になるなど、どう見てもフェミニストのモデル的な女性である。彼女は著書の中で、日本の民話からの伝えとして、結婚も妊娠もしない女はオニババになる、女性である以上は出産すべきだと主張して、晩婚・非婚・堕胎に抵抗を感じない日本女性に衝撃を与えた。
 女性の身体性と宗教との関連を示す文献を探していた私にとって、三砂のメッセージは福音であった。なぜなら、彼女こそ自己主張の機会を与えられない女性たちの無意識の「声」を代表するからである。何万年という民族の歴史を継承してきた女性たちは、「サイレント・マジョリティ」であると思う。三砂はブラジルと日本における女性のリプロダクティブ・ヘルス研究から得た成果に基づいて、まだ西洋文明の影響がなかった時代に、日本女性たちが伝承した体験知を示している。中でも興味深いのは性と神道との関係である。例えば、鳥居から入ると参道とお宮がある。参道は産道、お宮は子宮と考えると、神社は女性の性を深遠な魂のよりどころと捉える宗教的な建造物である。
 日本人の自然崇拝は八百万の神を祀り、天照大神に象徴される女神信仰は皇室神道となった。神と人の交流を助ける神道の巫女(みこ)は、古代から霊的能力による癒しを取り持った。祖霊や産霊を中心とする神道は五穀豊穣を祈る。人間と自然が一体である民間信仰では男女の性交は子孫繁栄と豊穣をもたらすと信じた。男性や女性の性器は呪力をもつ信仰のシンボル(男根と女陰)として崇拝され、それらを祭神にする神社は今でも残っている。このことはセックスを本質的に悪とし、出家主義で妻帯を禁止する仏教(釈迦の小乗仏教)とは根本的に異なる。
次に、三砂がリプロダクティグ・ヘルスの研究によって発見した女性の身体に宿る重要な概念を要約する。そこから学ぶ知恵は筆者のコメントである。
 

命を創る月経血やお産

●おにばば化:「おにばば」の民話とは独身の更年期女性が山にかくれて暮らし、夜になると近くに来る小僧をおそう民話に出てくる。セクシャル・エネルギーの発露を求めたと考えられる。
学び:女性は月経・性体験・出産など自らの女性性に向き合う適齢期がある。性生活は魂の行き交う場で霊的な経験である。体の声に耳を傾け、性と生殖は喜びに満ちた経験であることを知る。
●月経血のコントロール:着物の時代、月経血は垂れ流しの血をナプキンで受け止めるのではなく、膣口を緊張させてコントロールしトイレで排出した。現在はタンポンを使うコントロールが有効である。
学び:産後や中年以降に多い尿漏れも、下腹部の筋肉を緊張する運動でコントロールできる。ドイツではケーゲル法として医学の常識である。
●お産は「原身体体験」:体に向き合うお産は宇宙とのつながりを感ずる瞬間である。食べる、排泄する、生まれる、産む、などは、自然の一部である人間の身体と魂の経験であり、深い満足感を伴う。
学び:「女性は弱し、されど母は強し」と言うように、母と子の命のつながりという宗教的とも言える深い経験によって女性は生きる意味を見出す。女性が適齢期に自然出産を行い、安全で幸せな経験にするためには、一貫した継続ケアが必要である。
 

女性の性体験

●「負け犬」は女の強者:結婚していないエリート女性は、バリバリ仕事をして恋愛している。でも結婚しないでいいとする風潮は、「中性として生きる」ことなので気になる。
学び:性生活を魂の行き交う場で霊的な経験である。性行為を行う恋愛はよいが不倫は心の傷を負わせるのですべきではない。女性が現代社会で尊敬されるためには、性体験においても基本的な道徳は人権を尊敬することである。
●性体験に変わるもの:女性の身体性を発散させないと破滅的な方向へ向かうかもしれない。入れ変わるパートナーでは深い人間関係が形成できない。学問や趣味に性を「発散」して何かを達成できるが、性の「発露」とはならない。発露のための身体トレーニングの方法がある(例:『愛のヨガ』)。
学び:性体験も入れて文化特有な生き方や方法がある。結婚しなくても女性の身体性を大切にする。社会とのつながりをもつためには、経済価値以外に自分が次世代へバトンタッチをするものは何かを考える。
 

命をつなぐ子育て

●母親に必要な軸:しつけが出来るために母親はぶれない軸が必要である。女性が月経・性体験・出産を主体的にこなしていると、自然に軸のある身体になる。落ちついてきちんとしたものの見方は、子どものしつけができる条件である。子どもに人間として生きるルールを教えるために、親はぶれない軸が必要である。子どもの自立を見守り、コントロールしない。
学び:女性の実家依存が目立つ。ものが豊かな時代に少子社会に育った女性たち、彼らがぶれない軸をもつことが如何に重要かを考えさせる。
●両親はエロスのモデル:若い人が結婚しないのは親がモデルを示さないからである。両親は「セクシャル」も含めて、よい人間関係を示す必要がある。
 学び:子育てに没頭する妻に対して夫は「女でも妻でもなくなった」と嘆く。急速な西洋化と共に変わりゆく日本社会における結婚や子育ては、個人を超えた社会全体の課題としての対応が求められる。
●娘の生殖年齢:結婚や出産の適齢期は思い通りにならないので、結婚相手の選択は妥協が必要である。親は娘の生殖年齢を見逃してはいけない。
学び:女性が結婚・出産しても教育や仕事を続けられる環境を整えるためには、家族や仲間の助け合いが基本となる。しかし政策だけに頼ることはできない。
 

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