スノーボールの言語学習

スノーボールの言語学習

はしがき

 スノーボールはYouTubeの普及によっていち早く有名になった白いオウム。スノーボールが何歳か、どう生きたのかは不明だ。飼い主が次々に変わり、最後はインディアナ州の家庭で数年過ごしていた。ところが可愛がっていた娘が大学へ進学して家を去ると、スノーボールは怒りっぽく・攻撃的になった。困った家族は、保護施設に連れて行き、スノーボールがお気に入りの音楽CDを一緒に渡したという。

 

生物学者シュルツ氏と運命の出会い

 施設の創立者で元生物学者のシュルツ氏は、音楽に合わせて「踊る」スノーボールを見た。笑い死するほどの名演だったので、面白半分にYouTubeに乗せた。すぐに大人気となり、一週間で20万回、5年で500万回も再生された。商標登録のグッズからTVの出演など、一躍大スターになったスノーボールは、ありとあらゆる曲に合わせて踊った。 その後、YouTubeを通して、スノーボールは有名な言語研究者と出会うことになる。

 

神経生物学者・パテル博士と出会う

 スノーボールのビデオは「ブレーン・イメージング」によって音楽と言語の実証研究していたパテル博士の眼に留まった。パテル博士は、人間の脳が言語と音楽をほぼ同時に処理することがわかり、最初の論文発表した神経生物学者。スノーボールの画像を詳細に分析した結果、ヒト以外の動物が音楽の拍に同調することを実証できたという論文を発表した。

 その後、同じハーバード大学の研究者シャクナー氏が、言語と音楽の関連を示す新しい研究を開始。ミツバツから野鳥や、へび、踊る動物はたくさんいる。しかし、彼らの踊りは必ずしも拍子に合わない。シャクナー氏の踊る動物の研究は、YouTubeの動画を科学的に分析するもので、5000本のビデオから脈のありそうな400本を分析した。調査対象で数が多かったのは、イヌ、オウム、ウマ、ネコ、ゾウ、リス、イルカ、サカナまで数十種。もちろんチンプやオランウータンも含まれていた。

 その結果、リズミカルな音に同調したダンスの徴候が見られたのは33件。そのうち29本はオウムで、残る4本はアジアゾウ。一方、チンパンジーなどサルは不合格。スノーボールは、DVDやTVの人気者のみか、IT時代の言語研究にも貢献したのである。

 

おわりに

 右脳の研究がノーベル賞に輝いてから35年が経過。パテル博士は生物心理学の立場から、過去20年以上もプレーンイメジングによる音楽と言語の関連を研究している。その成果は一冊の書籍として出版(2008)され、米国でESL(第二言語としての英語)の教育に応用されている。人間だけが学べる言語の発達と教育における心理学の貢献は、新たな局面を迎えた。[KK.HISAMA. 2016.3]

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