日本人のための宗教原論

日本人のための宗教原論

日本人のための宗教原論:小室直樹、徳間書店 2007.7

 

はしがき

 宗教は人間の生と死に深く影響する。多くの人が宗教の本質を知らない日本では、いんちき宗教や健康・病気に君臨する科学教に引っかかる。本書は宗教の本質について「予想を絶する」徹底的な宗教原論であると云う。宗教とは何か、どの宗教が自分を救えるのか、について批判的ではあるが冷静に考えるための示唆が多い。

 

宗教の本質を知らない日本人

 学校崩壊、カルト教団から小学生による殺人、自殺の急増が起こっている。それらの行動の背景には、こころの問題や社会・経済的問題が蔓延している。宗教を忌避するのではなく理解すべきである。開国と明治維新による国際化は、西洋の宗教であるキリスト教に根ざした資本主義、デモクラシー、近代法を基盤とする。しかしながら、日本人はキリスト教や西洋の思想を理解できないので、資本主義、デモクラシー、近代法もすべては名ばかりで機能できない。公的なサービスである医療は、各国の政治や経済事情によって大きく異なる。著者は、日本の医療に決定的な影響をもつ政治と経済は破局へ向けて驀進中、そのため医療の崩壊は当然の結果となるであろうと言う。

 

 

世界の主な宗教について

 日本人が耳慣れたキリスト教、仏教、儒教に加え、ほとんど知らないイスラム教についても言及している。小室は世界の宗教を語る全能の神様ではないかと思われるほどの豊かな知識をもち、社会学的な立場から主な宗教を比較し日常レベルで説明している。凡人が楽しく読めるので、他の宗教書と異なる。

 第一章は日本人にとって宗教は恐ろしいもの、第二章は宗教的な考え方、続く章では世界の四大宗教について説明。最後に日本に特定の宗教が発達しなかった理由と、その結果、何が起こっているのかについて述べている。著者による四大宗教の解説については、読者に熟読していただきたい。

 

宗教を知らない危険な国家

 戦後日本の最大の問題は、頂点における天皇システムと底辺となる村落共同体が崩れ、人と人との結びつきなる連帯が失われたことである。人々は糸の切れた凧のようにさまよい孤独や不安に襲われている。この無連携社会を満たすため、会社に依存する会社人間、新興宗教、校内・家庭内の暴力や殺人、自殺が増加した。政治運動から健康食品まで、日本人は理性を失い感情による「わっしょい」騒ぎとなる。こうした現状を救うためには、宗教家はもちろん、日本人一人ひとりが本当に宗教を理解することから始めなければならないと結論している。[2008.4.KK.Hisama]

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