改めて『万葉集』をよみとる

改めて『万葉集』をよみとる

万葉集(ビギナーズ・クラシック日本の古典)角川書店編、2019.4(43版)

 

はしがき

 この本との出会いは、天満宮にお参りしてから訪れた九州国立博物館のおみやげコーナーだった。新しい元号の発表直前に出版されたが初版は18年前で、『万葉集』二十巻、4500余首の中から140首を選出している。全4500余首の半分は作者不明という。天皇の歌、有名な人麿呂や家持など有名な歌が多い。

 

新しい元号と古典ブーム

 万葉集は学校教育で教わって以来、初めてひもとく人も多いと思う。本書はこれ以上やさしい万葉集はないと思われる内容である。以下、カテゴリーの中で代表的な歌を紹介する。

 

相聞の歌(人を愛する歌):雄略天皇が、早春の野原で若い娘を見染めた相聞歌だ。

早春の妻問い

よ、み持ち 掘串ふくしもよ み掘串ふくしもち・・・この岡に菜摘ます子・・・」

と、籠と串をもって菜を摘む娘への語りかけで始まる。次に
「大和の国は おしなべて 我こそ居れしきなべて・・・」と自分が支配者であることを告て、「らめ 家をも 名おも」と娘に尋ねる。

 

子らを思う歌: 山上の憶良の有名な歌である。

うりめば こども思ほゆ 栗食めば ましてしぬはゆ いづくより 来たりしものぞ まかなひに もとなかかりて 安(やす)いし寝(な)さぬ」に続く反歌は、「しろがねも くがねも玉も 何にせむに まされる宝 子にしかめやも」

 両親が、子どもたちの前でこの反歌を詠唱したことを記憶している。わが子に暴行を加え殺害さえする親たちは、この歌を知っているであろうか。日本の古典を大切にする教育がひときわ大切な時代と思われる。

 

万葉集の花と鳥

 日本の詩歌や文学の背景には、「花鳥風月」の美しい自然がある。五感を通して心に響く美しい日本の花鳥。万葉集は現代人の感性を磨き、苦しみを癒してくれる。

 

川のの つらつら椿 つらつらに 見れども飽かず 巨勢こせの春野は(春日蔵首老)

*「椿」は国字(日本製漢字)で、春の到来を告げる聖なる木。音声によって、つやつやした葉と花弁が奏でるまろやかな音楽が聞こえるようだ。

 

我がそのに 梅の花散る ひさかたの あめより雪の 流れ来るかも(大伴旅人)

*我が家の庭に白梅の花が散る、大空から流れ来る雪のように。万葉集、桜よりも梅を愛でる歌が多い。

 

若の浦に 潮満ちくれば かたをなみ 葦辺あしべをさして たづ鳴き渡る(山部赤人)

*干潟がなくなると、鶴は他の葦辺に鳴き渡っていく。鳥の優雅な姿と、次第に遠くなる鳴き声と、足元に近づく水面と・・・。

 

梅の花 散らまく惜しみ 我がそのの 竹の林に うぐいす鳴くも(将監阿氏奥島)

*散る梅とうぐいすの鳴き声と、季節は休みなき移り変わっていく。

[KK.HISAMA, 2019.7]

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