「甘え」の構造

「甘え」の構造

「甘え」の構造 土居健郎、弘文堂1971.2
「甘え」と社会科学 大塚久雄、川島武宜、土居健郎、弘文堂1976.10

 

はしがき

 最近の健康雑誌に土居武雄の書が新刊として紹介されていた。医療は純粋な自然科学ではなく、人々が生活する時代と民族の歴史によるところが多い。土居の著書は、医療に携わる専門職や消費者はもちろん、政策を担う人々や医療・健康産業にとって重要な理論である。

 

「甘え」理論の誕生

 由来は、第二次世界大戦によって崩壊した日本の再建を指導したアメリカ政府の善意に始まる。土居は1950年米国政府のガリオワ奨学資金を得て精神医学を学ぶために渡米した。そこで日米の文化の大きな違いに気づき、日本人のための精神医学と治療を考えるきっかけとなった。土居は臨床経験の分析を続けながら3回渡米、数々の国際学会発表や意見交換を行った。甘え理論が一般の人のために単行本として出版されたとき、最初の渡米からすでに20年が経っていた。この著書はベストセラーとして、20世紀後半の日本はもちろん世界の人間論に大きな影響を与えた。

 

「甘え」の構造とは

 日本語に特有な「甘え」は精神構造だけではなく、社会構造にも深く浸透している。甘えの概念は、第2章:「甘え」の世界、第3章:「甘え」の論理に述べられている。「甘え」を日常生活の義理・人情、罪と恥、他人と遠慮、内と外など関連しているので理解しやすい。日本人が国際社会の一員として活躍するとき、最大のバリアは、個人や集団の利害を超越するパブリック精神が乏しいことである。日本のイデオロギーとしての甘えを否定することは不可能である。甘えの氾濫を抑制する鍵は、「『自分がある人』は甘えを抑制できるが、ない人はひきずり込まれる」という土居の言葉にあるのではないか。

 

社会の「甘え」

 『「甘え」と社会科学』は、社会経済学(川島)と法律学(大塚)の専門家を入れた三人の討論である。二人は土居の甘えが学会で発表される以前の戦時中から、すでに甘えの概念が法律や社会学にとって重要なことに気づいていた。異なる学問分野の学者をまじえた「甘え」の徹底的な討論は、日本人の精神構造はもちろん、その延長としての社会規範を知るために重要である。「甘え」の概念は日本人と日本社会の有用な理論であり研究道具であるとしている。武家社会や明治維新に活躍した武士や上流階級の存在など、甘えの氾濫を抑制するために示唆が多い。

 

おわりに

 「罪と罰」のような厳しい制裁を受ける国民は、日本の「甘え」に憧れるようだ。親子の中で許される「甘え」は、社会における「やさしさ」や「思いやり」は、法律においても検討されるべきではないか。[KK.HISAMA 2008.3]

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