ファーマーズ・マーケットから

ファーマーズ・マーケットから

はじめに

 今年も、日本の猛暑を逃れて涼しいアメリカの大学町にやってきた。七月は寒いくらいだったが、八月に入ってようやく暖かい。土曜日の朝、電話が鳴った。

 「今日はファーマーズ・マーケットがあるわ・・・」隣の州に住む娘の元気な声が聞こえた。

 急いで身支度をして近くのマーケットに出かけた。買い物だけでなく、土地の人との交流が楽しい。

 

ファーマーズ・マーケットとは

 野菜が育つ春から晩秋まで、近隣の生産者が週一回都心にやってくるマーケット。日本の道の駅のように、新鮮な野菜、果物、肉、魚、きのこ、木の実だけでなく、焼き立てのパンやデザートも並ぶ。屋台のレストランでは、南米、アジア、中東の味が楽しめる。

 ベンダー(生産者・売り手)は、働きざかりの若い人が多い。客は健康志向の野菜食の人を中心に、食文化を大切にするグルメが多い。ベンダーと客の会話だけでなく、顧客同志の会話がはずむ。その日の買い物は、野菜を主に、アーモンドミルク(ラベンダーの香り)、ピータパン・チップとガゼボ豆のディップ。憧れのラムチョップもあった。

 

FMコミュニティの交流

 いつもミュージシャンが得意の楽器を演奏している。大抵は聞き流して歩くが、女性ヴァイオリニストのメロディが聞こえた。すぐ前で、歩き始めたベビーが身動きもしないで聞き入っている。

 「ハ−イ」と声をかけると、私を見てにっこりと笑う。

 「ミュージシャンになるの」と聞くと、澄んだ青い目が私を見つめる。

 帰り際に一ドル紙幣をベビーに渡して、ヴァイオリのケースを指さした。小さい手にお札を持ってケースの中に入れた。ほめられると、恥ずかしそうにお母さんの太ももに顔をつけた。

 

おわりに

 日本でも、ベビーは話しかけると皆うれしそうだ。成長するにつれ「他人」を意識し、無関心になる。私の経験から、日米文化の最大の違いは他者との言語コミュニケーションだ。
静かで、眠れる電車は本当にありがたい。他者を思いやる日本文化は、尊重すべきであり、無理に変える必要もない。数万年続く民族の文化が、急に変わるはずがないからだ。

 言語コミュニケーションを最大の目標とする英語教育が、過去40年間進歩しない根本的な理由かもしれない。[KK.HISAMA,2019.8]

©2022 athena international research institute.