「見ざる・聞かざる・言わざる」子猿養育の知恵

「見ざる・聞かざる・言わざる」子猿養育の知恵

はしがき

 アメリカの学校教員が日本の教育を学ぶツアーに関わった時期があった。到着した翌日は自由行動で、教員たちはそろって日光に出かけた。今回の日光への旅は、東京で10月に開催された学会の後で数十年ぶりだった。日光は多くの外国人で賑わっていた。

 

日光への旅の目的

 私の記憶に残っているのは、屋根の庇の下に並ぶ三猿の彫刻。人間の生き方を彫刻で伝えているのだ。生き方は、時代と文化によって変化するのだろうか。グローバル化によって世界中が「ノーマッド=遊牧民」があふれる現代の生き方と比較して見たかった。

 アフリカやアジア大陸など、人類は狩猟や家畜の餌をもとめて移動する遊牧民が多かった。今はグローバル経済の中で、旅行者や移民が世界中にあふれる。彼らは現在の「遊牧民」とも呼ばれ、人種・文化が違う異民族が隣合わせで生活している。人々はアイデンティティを失い、若者たちの不満が爆発する。

 

グローバル時代の日光

 日光で旅行者のことばを聞いていると、日本かと疑うほど外国人が多い。華厳の滝へ向かうバスで隣にすわった男の子に話して見た。日本語は話さないというので英語で聞いたら、タイ国から一家五人で旅行中の高校三年生だった。スマホがあるので、日本語ができなくても、楽しく旅行できるという。帰りのバス停では、初老のアメリカ人男性と話した。私が英語を「流暢に話す」ので、どこの国から来たかと聞かれた。初対面では相手の出身国を聞くアメリカへ戻った気がした。

 

子猿養育の知恵

 日光での観光案内役は人工知能。広大な森の中にある全ての建物が絵で示され、タッチで音声ガイドが始まる。英語・日本語だけでなく他の外国語も選択できる。「見ざる・聞かざる・言わざる」は、猿の一生を語る八場面の彫刻の二番目。幼少期の子猿は、世の矛盾や悪に惑わされないで、すくすくと育てるのがよいというもの。

 日本では、英語こそ「国際人」を育てることば。日本語も日本文化もおぼつかない幼少期から英語を教え、小学生からは多様な外国人助手から英語を学ぶ。アメリカで、子猿(類人猿)に英語を教える実験が1980年代まで半世紀も行われた。すべての猿は英語を学べなかったし、一生続く感情障害をかかえる不幸な運命を辿った。猿と一緒にことばを学んだベビーは、猿の声を真似するようになり実験中止。ベビーも感情障害の人生を送ったと言う。[KK.HISAMA. 2017.11]

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