「俺たちに明日はない」人々

「俺たちに明日はない」人々

はしがき

 世界恐慌下のアメリカで、州を超えて、銃を使い次々に銀行強盗をした若いカップルを描く1967年の映画のタイトルである。映画はテキサスの刑務所を出たばかりのイケメン(ウォーレン・ベィティ)が駐車場から車を盗む場面に始まる。

 車の持ち主(フェー・ダナウェイ)が、大声をあげて二階から駐車場へやってくる。ところが、駐車場で叫びあっている間に、二人は相思相愛の仲となる。ここから銀行強盗の旅が始まる。しかし、女が故郷と親を思い人間らしくなったとき、二人は銃に打たれて死ぬ。

 

「俺たち明日はない」を考える

 グローバル社会の急速な進展は、「明日はない」人間を限りなく増加させているのではないか。一つは、高齢者の増加、もう一つはグローバル化による世界規模の人口移動である。どちらもグローバル化による経済発展と密接に関係している。しかしながら、故郷を失った彼らは移動した社会から疎外され。悲しみを生きる運命にある。

 「明日はない」とは「死ぬ」こと。人類の長い歴史の中で、産婦や乳幼児はもちろん、身分の高い人も常に死と向かい合わせで生きていた。ところが、二つの壊滅的な世界戦争を経た二○世紀は、経済成長を背景に多くの国家が長寿社会を実現した。医療の進歩が長寿に拍車をかけている。急増する高齢者は「明日はない」人間の最大数を占める。人間を幸福にも不幸にもする「明日はない」時代の生き方が問われているのだ。

 

武士道とは死ぬことと見つけたり

 日本人なら知らない人がいないほど有名な一句。佐賀藩主・鍋島家に仕え、殉死を果たせなかった藩士・山本定朝が草庵に住み、若い藩士に口述した武士道の神髄である。明日の命がない武士の生き方は、『葉隠』という手書きの本に述べられている。

 「俺たちに明日はない」ということばは、なぜか「葉隠」武士道を思わせる。死ぬ覚悟で生きて何事かを達成する人こそ、最高の喜びを感じるのではないか。たとえ悪事を働く銀行強盗さえも。日本人の倫理を今一度考えさせることばである。[2018.4]

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